フォーカル・ジストニア

指の屈伸の解剖学

最初に、指の屈伸の解剖学について書きます。

指の屈曲
手外筋(前腕にあり、指を動かす筋肉)
浅指屈筋 FDS 正中神経支配 各指は単独に曲げられるが、実は筋腹近位は融合し分離は完全でない。

深指屈筋 FDP 正中神経と尺骨神経支配 示指中指が正中、環指小指が尺骨。尺側3指が尺骨が多いとも。
PIP, MP屈曲にも関与。

指の伸展
総指伸筋、長母指伸筋、短母指伸筋、固有示指伸筋、固有小指伸筋

手内筋(手の内部にあり、指を動かす筋肉)
骨間筋 尺骨神経支配

掌側骨間筋 MPでの側屈(示指尺屈、環指小指橈屈)、PIP・DIPでの伸展(MP関節伸展位で)

背側骨間筋 MPでの側屈(示指橈屈、環指尺屈)、PIP・DIPでの伸展(MP関節伸展位で)

虫様筋 正中神経 尺骨神経の支配
MP関節屈曲 PIP・DIPでの伸展(MPの位置に関係しない)

参考文献 手その機能と解剖 上羽康夫

ジストニアとフォーカル・ジストニア

ジストニアはゆっくりねじるような奇妙な不随意運動ですが、ジストニアが局所に起こるものをフォーカル・ジストニアといいます。

音楽家のフォーカル・ジストニア

音楽家のフォーカル・ジストニアについて、防衛医大の根本先生が、日手会誌26 2 93-96 2010年で、報告されています。

32例の患者さんをまとめています。

反復した難しいパッセージの練習が原因となります。

指または手関節の運動の異常を起こします。

打楽器奏者は手関節の運動異常でした。

指では、巻き込まれる66% 隣接指に引き寄せられる16% 浮き上がる9%。

例としては、中指PIPから屈曲してしまい、MPは比較的伸展位に保たれます。同時に母指IPが伸展してしまいます。

fMRIでは一次運動野の活性化がみられルトのことです。

治療としては、

姿勢や悪いクセを矯正すること、

手内筋の筋力訓練

漢方(68芍薬甘草湯, 54抑肝散)

感覚トリック:視覚を利用する。鏡像を見ながら演奏する。

指の巻き込み

頻度の多かった「指の巻き込み」は、指がPIPから強く曲がってしまう現象です。
指を軽く早く動かすには、手内筋の虫様筋を使う曲げ方、MP関節から曲げるのが合理的です。力む、過剰な緊張で、手外筋であるFDS浅指屈筋腱が勝手に働いてしまうことが、巻き込みを起こします。

ジストニアについて、音楽家の手 臨床ガイド 2006 協同医書出版社には次の様に書かれています。

痙攣と協調運動の異常であり、運動制御の障害

20年以上の演奏家に発症する。

鏡像効果:患側手と同じことをさせてみると、非罹患手にも同じ現象が出現する。

遺伝性があるとされています。

相反神経支配の異常、補足運動野と運動前野の異常、運動技能の準備の異常、シナプス前抑制の異常と考えられています。

400例の全例に、上肢肩甲帯から脊椎の不良姿勢があった。
手関節、肘関節の異常な使い方をしていた。

肩甲帯のリラックスとコントロール、
姿勢と正常生理学を尊重した使い方の再教育
が治療の基本とのことです。

考察

ここから私の考察です。

ジストニアの原因

ジストニアは、精神的なものではなく、脳の運動野の機能異常です。

再教育が可能です。

多くは手外筋 FDSの介入です。

本来、指の軽い速い動きは主に手内筋で行われます。

手から肩までの緊張は、そのどこかで手を支えようとして起こります。
不良姿勢では、下肢から体幹の安定が不十分なため、肩やその先が金鳥します。
不良姿勢と悪い使い方による過剰な反復練習により
緊張,力むことで手外筋まで動いてしまう癖がついてしまいます。
この癖は脳の機能の異常です。
緊張、力みの背景に、必ず身体の支えの不足があると考えます。

ジストニアの治療の基本

ジストニアの治療の基本は、まず
安定した座位姿勢、立位姿勢を知る。
体幹と頭を安定させる。
そして、力まず、ゆっくりした動きから練習して、運動の再教育を行う。

ジストニアにならないためには

ジストニアにならないためには、
まず安定した立位、座位姿勢を学ぶ。
手の操作は、極力、無駄な力を使わず、力まない最小限の力で行うことを考える。
力を使わずに済む、緊張の少ない上肢のポジション、上肢と体幹の位置関係を探す。
ゆっくりした速度で、力を使わず練習していく。
押さえる力は最小限を追求する。

練習をしすぎないことも重要だと考えます。
運動器の障害は、練習のしすぎで発生します。本番で壊す人は事故は別として、通常いません。

座位や立位の練習には、アレクサンダー・テクニークをお勧めします。

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