CRPS( 複合性局所疼痛性症候群)の原因、病態

CRPS、Complex regional pain syndromeについて

2018年10月現在、私が調べたこと、考えていることを書いていきます。CRPSは外傷後の経過に合わない、痛みと浮腫が特徴です。

現在の私の対応

受傷後2週以後で、警戒して観察していきます。

通常、順調に回復しているはずが、
痛みが強かったり、浮腫が予想以上に残っていれば、CRPSを疑い、まずノイロトロピンを処方します。

これで1-2週観察し、改善がなかったり、悪化した場合は

浮腫強い=炎症強い と判断し、ステロイドを処方します。

経口でプレドニゾロン20mg/日 1週間。
改善が見られれば 2~4週で漸減終了します。

ステロイドは鎮痛作用、抗炎症作用だけでなく、多幸感、高揚感も起こります。
これも鎮痛に効果があるのではないかと思います。

ピリピリ感には、牛車腎気丸、当帰四逆加呉茱萸生姜湯がよいと思っています。

CRPSの病態

CRPSは強い痛みと腫脹が特徴ですが、それなりの大きさの神経が関係した炎症だと考えます。

神経損傷が関与する場合と、関与しない場合がありますが、
神経損傷がなくても発生することから、神経「損傷」が本質ではないと考えます。

私は次のように考えます。

本質は出血、血腫の中のブラジキニン(BK)過剰産生。
それによる神経炎症。
さらに神経からのNGF(Nerve Growth Factor 神経成長因子)産生が病態を加速、
BKの大量産生という、悪循環が起こっていると考えています。

外傷による血管内皮細胞損傷、周囲炎症により、BKが大量産生され、
その中に太い神経があれば、シュワン細胞から炎症刺激でNGFが産生され、
さらに炎症が悪化する悪循環を起こします。

炎症が強いと線維化や神経機能異常が強く起こり、
拘縮も起こりやすく、その後の運動時痛、循環障害も起こりやすくなります。
神経周膜も筋膜も広く過敏となります。

よく裁判になる採血事故で起こったCRPS(かつてはRDS Reflex sympathetiv Syndrome 反射性交感性ジストロフィーと言われました)も、
おそらく神経損傷が問題ではなくて、採血後の皮下出血, 皮下血腫が原因だったのではないかと考えます。

橈骨遠位端骨折でCRPSはよく発生しますが、
ここでは、骨折部周辺で、橈骨、正中、尺骨の3神経が関与しうる悪条件だからだと思います。

採血事故で問題になる、肘も、同様に3神経が存在します。

早期の浮腫は自律神経には無関係な血管透過性亢進によると考えます。

かつてはRDS Reflex sympathetiv Syndrome 反射性交感性ジストロフィーと言われたように、
浮腫も自律神経の関与が疑われていました。

症状が神経支配と一致しない理由

症状が神経支配と一致しないと言われるのは
炎症範囲が神経支配と無関係だからだと考えます。
出血範囲が症状の規定因子で、それは神経支配と無関係だから。

さらに、痛みで廃用性萎縮を起こす時は、神経支配に無関係に、全体に広く起こります。

トリガーポイント(MPS)も局所の過敏が起こりますが、筋膜を中心に膜が過敏になります。
動きで負担がかかる所に起きます。
神経は関係する可能性はありますが、過敏な部位は運動器主体で局所的、限定的です。
筋の大きさ、神経支配の関係で関連痛として、症状が広く起こることはありますが。

CRPSでは、炎症が強く広範囲に起こるため、
痛みが非常に強く、局所的にも、脳の中でも過敏部位は広範囲になります。

手関節、手指関節、肘関節など、痛みが強いため、痛いから動かさないという本能が、回復を阻害します。
筋萎縮や、関節拘縮を起こし、これがさらなる痛みにつながります。

廃用性萎縮による筋力低下は完全麻痺ではありませんし、神経麻痺ではないので、筋力低下は神経支配に合わないことになります。

早期に対応される場合はよいのですが、
医療現場での、従来からの慢性疼痛への対応力不足が、CRPSを重症化、長期化させる場合があります。
痛みの強さと持続は、さらに中枢感作につながり、慢性疼痛化します。

先天的あるいは後天的に、痛覚過敏のある人に起こりやすいと考えます。

CRPSの診断、後遺症診断を依頼されることがありますが、殆どの場合、そのきっかけとなったトリガーポイントが残存しています。そこにエコー下ファシアリリースを行うと、痛みがかなり減ります。

神経の長さと太さと自律神経

自律神経節前線維はB線維で有髄線維
自律神経節後線維はC線維 (鈍痛と同じ)で 細い無髄線維

交感神経節は比較的中枢に近く位置し,
副交感神経節は比較的効果器官の近くまたはその中に位置する。

それゆえ節後線維が副交感神経では短く,交感神経では長い。
副交感神経の節前線維は有髄線維で、効果器官の近くまで伸びています。

一方、圧迫、低温、低酸素による伝導ブロックは神経線維が太いほどブロックされやすい。
有髄線維が無髄線維よりブロックされやすい。

CRPSにより神経の機能異常が起こった場合、
末梢では副交感神経が有髄で障害を受けやすい。
相対的に交感神経機能過剰となり末梢は冷えることになります。

実例

加古英介 杉浦健之 平手博之 藤田義人 薊 隆文 伊藤彰師 笹野 寛 津田喬子 祖父江和哉名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔・危機管理医学

症例は 34 歳女性.8 年前に多汗症のため,両側胸部交感神経切除術を受けていた.検査のため左正中静脈から採血され,帰宅後に痛みが出現し,3 日後に疼痛の増悪と皮下出血を自覚し,さらに冷感も感じるようになったため当科を受診した.疼痛症状の強さから,複合性局所疼痛症候群(CRPS)への移行も危惧された.麻酔科外来での星状神経節近傍近赤外線照射と薬物療法により,約 2 カ月後には初発部位の痛みは軽減したが,反対側の肘や両膝の冷えを加えて訴えていた.3 カ月後の現在,症状はさらに改善してきたが,注意深く経過を観察している.CRPS 発症の機序は,複雑かつ多岐に及び,あくまでも不明であるが,異常な交感神経反射による悪循環形成が CRPS の病態形成に関与するという考えもある.その観点からすると,交感神経切除術後では交感神経過緊張による悪循環が形成されず CRPS への移行は起こりにくいように思われる.今回われわれは,採血後の疼痛が遷延し,患側肢の冷感,腫脹など CRPS 様の症状をきたした交感神経切除術後の症例を経験したので,文献的考察を踏まえて報告する.
第 19 回東海ペインクリニック研究会(日本ペインクリニック学会東海地方会)

https://www.google.com/url?sa=t&source=web&cd=49&ved=2ahUKEwjzz7qw-eLdAhVEWrwKHU4CBPA4KBAWMAh6BAgCEAE&url=http%3A%2F%2Fwww.medicalonline.jp%2Fpdf%3Ffile%3Dhanrei_201403_01.pdf&usg=AOvVaw0gyURlRVYEq0CHQ0Bqh5_H

コメント:このケースも、神経損傷より、皮下出血が問題だったのでは。

交感神経の関与より、反対側の肘や両膝の冷えといった中枢感作が起こっていることが問題と考えます。

参考

ブラジキニン(bradykinin)

血圧調節および炎症発現に関与するペプチド。血清たんぱくの一部が、組織が障害された結果遊出してくる酵素(カリクレイン)によって分解されて生じる。血管拡張毛細血管の透過性亢進(こうしん)による浮腫(ふしゅ)などを起こすが、強力な発痛物質としても知られている。
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/react-inflammation.html

BK 炎症により血管内皮細胞破壊 血液凝固XII因子活性化 カリクレイン・キニン系で産生

組織炎症が加わるとBKが大量に産生される

BKは侵害受容器 血管内皮細胞 マクロファージ 線維芽細胞 肥満細胞に作用

マクロファージはプロスタグランジン(PG)、腫瘍壊死因子(TNF)遊離
線維芽細胞はPG、NGF遊離
肥満細胞はPG、セロトニン、NGF遊離

を起こす。

BK受容体は2種ある。
炎症時発現するB1
常在するB2:侵害受容器 血管内皮細胞 マクロファージ 線維芽細胞 肥満細胞

炎症が長引くと(数時間から数日)
ブラジキニンB1受容体の新生。
侵害受容器上のブラジキニンB2受容体発現量の増大によるブラジキニン感受性の亢進。
この機構には、NGFも関与する。

ポリモーダル受容器

主にC線維からなる。
機械的、化学的、熱刺激など、多様式(poly、mode)の刺激に反応する
炎症によっても、反応が増大
熱によって感作される。
損傷や炎症時に活性化し、痛覚過敏の原因となる。

ノイロトロピンはブラジキニンの遊離を抑制する

ラット足趾に侵害刺激である圧刺激を加えると、刺激局所にブラジキニン(BK)やプロスタグランジン E2 (PGE2)等が増加する。この系に本剤 10~50NU/kg を単回経口投与すると、PGE2 遊離には影響を及ぼさなかったが、BK 遊離を用量依存的に抑制した。一方、インドメタシンは PGE2 遊離を抑制したが、BK 遊離には影響を及ぼさなかった。このことから、本剤の鎮痛作用機序は非ステロイド性消炎鎮痛剤と異なることが示唆された。(ノイロトロピンのインタビューフォームから)

労災自賠責の後遺症認定の問題

労災自賠責の後遺症認定では
関節拘縮
骨の萎縮
皮膚の変化の症状

を要件としています。

診療が、医療側、患者側の理由でうまくいかないとき、悪循環から脱出できず、確かに、上記状態が残存します。

CRPSで起こりうる一時的な状態ですが、適切な治療を行えば、全て改善できる状態を要件としています。
診療が適切であれば、それらは回復します。
痛みを中心とした、異常知覚だけが残存することもありえます。

その点から、後遺症認定の条件として全てを必要とすることは不適切だと考えます。

全経過の記録があり、経過中に上記の状態があれば、後遺症が残存した痛みなどの異常知覚だけであっても、それが障害レベルであれば、後遺症認定すべきと考えています。

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